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長野地方裁判所 昭和50年(行ク)1号 決定

原告 宗教法人浄久寺

被告 長野県収用委員会

訴訟代理人 山田厳 石川博章 太田陽也 村上基次 ほか三名

主文

原告の申立をいずれも却下する。

理由

第一申立の趣旨及び理由

一  原告は主位的申立として、本件裁決取消請求中には当初から損失補償請求を包含することを理由に、請求の趣旨を別紙一のとおり訂正のうえ、

「予備的請求に関して被告を左記のとおり変更することを許可する。

〒105 東京都港区新橋一丁目一番一三号

被告 日本道路公団

右代表者総裁 前田光嘉」

との決定を求め、予備的申立として裁決取消請求と損失補償請求とは行政事件訴訟法一九条のいわゆる関連請求であるとの理由で、

「原告の被告日本道路公団に対する訴えを昭和四九年(行ウ)第一四号事件に追加的に併合することを許可する。」

との決定を求めた。

二  被告は主文同旨の決定を求め、その理由として、主位的申立について、本件裁決取消請求にはもともと損失補償請求が包含されていないから請求の趣旨の訂正は許されず、それを前提とする被告変更許可の申立は許されない、予備的申立について、損失補償請求はすでに出訴期間を徒過しているから不適法である、また、いずれの申立についても裁決取消請求と損失補償請求とはいわゆる主観的予備的併合の関係にあるから不適法である、と述べた。

第二当裁判所の判断

一  原告は主位的に請求の趣旨の訂正及び被告の変更を申立てているが、そもそも本件訴状の請求の趣旨では権利取得並びに明渡裁決の取消を求め、請求の原因一において本件収用裁決の存在、同二において本件収用裁決の違法事由として本件収用土地等が原告である宗教法人に固有のものであつて本件収用裁決が信教の自由を侵害するものである旨主張しているものであるが、右によれば本訴請求は裁決取消請求以上にでないことが認められる。

もつとも、同二の(1)において、原告は「正当な補償について審理するには、当該対象物件について精査し、実体を正確に判定することがその前提要件でなければならない」と述べ、損失の認定につき不服を述べていることがうかがわれるけれども、具体的に数額を示して請求の意思表示をするならば格別、そうでない本件においては、右の事実をもつて原告が当初から損失補償の請求をも包含しているものとみることはできない。

もともと土地収用法による収用裁決は、被収用者の私有財産上の権利を一方的に収用又は使用することを内容とする形式的行政処分を含む一方、被収用者がその有する損失補償請求権の内容を確定することを内容とする確認的行政処分を含む点で二種の行政処分を包含し、従つて、裁決に対する不服は通常損失補償に対する不服にも及ぶところ、損失補償に関する不服申立については、その争いの実態が補償当事者間の財産上のものに過ぎず、又処分庁たる収用委員会を被告として関与させるほどの公益上の必要性もないところから取消訴訟によらせることなく、土地収用法一三三条により、補償金授受の当事者間の訴訟として構成しているものであるから、土地収用裁決取消請求の訴えには当然損失補償請求を包含しないものと解しなければならない。

そうだとすれば、本訴請求の趣旨につき訂正という方法をもつて当初から存在しない損失補償請求の追加をなすことは許されず、また、右請求の趣旨の訂正を前提とする被告の変更も許容することはできない。

二  次に、原告の予備的申立は本件裁決取消請求に損失補償請求が予備的に併合される関係になるので、右の併合が許されるか否かについて検討する。前者の請求の被告たる長野県収用委員会は国の行政機関であるが、後者の請求の被告たる日本道路公団は国から独立した日本道路公団法により設立された公法人であつて、右被告両名は法人格が異なりこれを同一視することができないから、右の各請求を客観的予備的併合として取扱うことができず、結局これらの請求を併合することは、いわゆる主観的予備的併合の関係に当ることになる。ところで行政事件訴訟における訴えの併合については行政事件訴訟法一六条ないし二〇条等に規定があるが、それには訴えの主観的予備的併合の許否について何らの明示がなく、従つて同法七条により民事訴訟の例によることになるが、つとに民事訴訟において訴えの主観的予備的併合が不適法であることは最高裁判所の判例の示すところであり(最判昭和四三年三月八日民集二二巻三号五五一頁)、行政事件訴訟においてもその例外ではなく同様に不適法として許されないものと思料する。なお、最高裁判所昭和三七年二月二二日判決(最判民集一六巻二号三七五頁)は、出訴期間経過後の予備的請求の訴えが適法とされた事例であつて、右判旨は訴訟の主観的予備的併合の許否について言及しているものでないから、右判決は主観的予備的併合の許否についての先例としての価値を有しないというべきである。

三  以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、主位的申立及び予備的申立はいずれも不適法であるからこれを却下すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 川名秀雄 福井欣也 川島利夫)

一 請求の趣旨

1 主位的請求

被告長野県収用委員会が、原告と被告日本道路公団との間の高速自動車国道中央自動車道西宮線新設工事及びこれに伴う附帯工事並びに道路の付替工事事業にかかる土地収用事件について、昭和四九年一〇月一一日別紙二物件目録記載の土地につきなした収用裁決は、これを取消す。

訴訟費用は被告長野県収用委員会の負担とする。との判決を求める。

2 予備的請求

被告日本道路公団は、原告に対し、金六〇、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四九年一〇月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告日本道路公団の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二 物件目録

訴状添付物件目録と同じであるからこれを引用する。

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